第59話

綴と語の美しさとは系統が異なるけれど、この人は見れば見る程端麗だ。


こんな人が、同学年で更には同じ学科にいたなんて、全く知らなかった。



それもそうか、私の周りには常に綴か語がいるのだ。いくら彼が人の視線を攫う容姿をしていても、普段の私はそれに気付く余裕を欠いている。




「不動君達と、本当に仲良しだよね北斗さんって。」



そろそろこの場を去らなくてはならないと云うのに、踵を返そうとした途端腕を掴まれて引き寄せられる。


しかも受け取った言葉に対しとても嬉しいとは思えず、曖昧な表情を浮かべて誤魔化した。




仲良しなんかじゃないよ、私は二人の奴隷なだけ。そう云えたら少しは心が軽くなるのかな。


苦痛でしかないしがらみから、一瞬でも解放されたりするのかな。




「実は僕ね、入学した時からずっと北斗さんの事が気になっていたんだ。」


「綴と語といつも一緒だもんね。」


「ううん、そうじゃないよ。」


「え。」



思いがけず発言を否定され、目が丸くなる。


艶のある彼の黒髪が、窓から吹き込んだ初夏の風によってサラサラと音を立てた。



触ったら気持ち良さそう。


傷みのない髪が風に攫われたせいで、相手の端麗な顔がよりはっきりと露わになった。

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