第58話

何をどう受け取れば、突進された事を幸運に想えるのだろうか。


私の脳みそでは、どれだけ考えても答えに辿り着けそうにない。




「北斗夜永さんだよね?」


「はいそうです。けど、どうして私の名前を?」


「僕、同じ一回生で同じ学科の人間なんだ。それに、北斗さん達ってとても有名だから。きっと、僕以外の人でも知っていると思うよ。」



そう彼は云ったけれど、さっきからずっと廊下を行き交う女生徒の視線がこの人に集中している気がする。


もしかしなくとも、彼の方こそ有名な人なのではないだろうか。



それに、彼は北斗さん“達”と云った。


それはきっと、私を取り巻いている麗しい双子も含めての事に違いなかった。



綴と語は幼稚舎から有名だった。彼等は人の心を惹きつける魅力を無意識に纏っている。


当人達こそ他人に無関心どころか、人を人とも想っていない様子だけれど、それでも何時だってあの双子は周囲の人間を虜にしてきたのだ。




だから有名と云うのは「綴と語と常にいるから」であって、何の個性も華もない私個人の事を形容している単語ではない。

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