第28話

視線を持ち上げる。


その先にあるのは、お揃いの微笑を湛えた二つの貌。




「夜ちゃん、何しようとしてるの?」


「何って、私もご飯を食べようと思ってるの。」



綴から飛んだ疑問に回答する。




「どうして?」


「どうしてって、お腹が空いたから。」



語から投じられた質問に言葉を返す。




「そういう意味じゃないよ。」



私に対し首を横に振った語が、私の前にあったピザを引き寄せてそのままテーブルの外へと捨ててしまった。



グシャリ


美味しそうなそれが、床に落ちた衝撃で無残な姿へと成り果てる。




「僕が云いたいのはね、どうして夜は学習してくれないの?って意味だよ。」


「……。」


「何度も云っているの。可愛い夜の躰にはこんな得体の知れない物を入れさせないよって、もう何百万回も云っているの。」




手首を掴む手に徐々に力が込められていく。


ミシミシと骨が音を鳴らしても、それが止められる事はない。



その間に私の手元に置かれたのは、栄養バランスが正確に計算し尽された食事の乗った皿が並んだ膳だった。

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