第14話

とんだとばっちりだ。


そんな不満を覚えるのは、とうの昔に忘れてしまった。




「不愉快な会話を聴いてしまったから、僕とてもご機嫌斜めなの。」



斜めどころじゃない。


相手がかなり不機嫌な事くらい、火を見るよりも明らかだ。もう十五年も一緒にいるのだ。それ位は手に取る様に分かる。



「夜ちゃんが可愛い?当たり前だよね。本来ならあんな連中の眼中にすら入る事のできない子なのに、毎年毎年どうしてこんなにも身の丈を知らない屑が湧き出てくるのかなぁ。全く、呪い殺してしまいたくなっちゃうよ。」



長い睫毛に縁取られた綴の目が細められる。


彼の瞳に映る私の表情は、自分でも奇妙だと思わずにはいられない程に無感情だった。



「だから夜ちゃんが大学に行く事を僕は阻止したかったの。」


「仕方ないの、夜の大学卒業はお祖父様の命令なんだもん。」



仕方ないの。もう一度その言葉を繰り返して不貞腐れた表情をする語が、私の隣に腰を下ろした。



「あーあ、僕と綴が大学生になったら夜を僕達の物だけにできると思ってたの。それなのに、夜まで大学に行く事になるなんて計算外なの。」


「あの糞爺くそじじいの短い余命をぜろにしてあげようかな、あんなの本家の階段から突き落としたらポックリ逝きそうだしね。」



クスクスと声を漏らす綴の恐ろしさは、その発言に冗談が僅かにも含まれていないところだ。

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