第3話
「良いかい?
家で見た事のない作り笑顔を貼り付けた父が紹介したのは、私と同じ年頃の貌が瓜二つな少年だった。
当時二歳だった私には、一卵性双生児と云う存在がこの世にある事なんて知らなかった。
もっと云えば、どうして自分が父に腕を引かれこんな場所に連れられたのかも分からず、どうして父がこの二人を私に紹介するのかも分からなかった。
唯一幼いながらにも明瞭だった事柄を挙げるとするのならば、目前で手を繋いでいる同じ貌をした二人の少年が大変に美しかったと云う事くらいだ。
「綴君も語君も、夜永と同い年で今年三歳になるんだよ。」
「………。」
「二人は父さんが勤めている会社の理事長のお孫さんなんだ。まぁ、こんな事を言ってもまだ夜永には分からないよね。」
印象的だったのは、毎日毎日家では疲弊仕切った表情ばかりを見せる父親が、この時だけは奇妙な程に明るかった事だ。
「兎に角、夜永は二人とお友達になる権利を与えて貰ったんだよ。」
「お友達?権利?」
「そう。父さんの為にも、どうか綴君と語君に仲良くして貰うんだよ。」
まだまだ小さな私の脳に刻む様に、ゆっくりと言い聞かせた父親は口許こそ笑っていたけれど、双眸は一切笑っていなかった。
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