第26話 金木犀と金色硝子の反撃
紡が連れてこられたのは、郊外の廃工場だった。
そこには、何十人もの半グレたちがたむろしており、その中心に玻璃は拘束されて眠っているようだ。見る限り、外傷はしていなさそうなので、紡は密かにほっと息を吐く。
玻璃と共に半グレに囲まれた紡は、その中の一人の男に顔を向けて尋ねた。
「私は縛ったりしなくていいの?」
男が鼻で笑って、紡を振り向く。
「はっ。お前みたいなひょろひょろの女、縛ろうが縛っていなかろうが、何も変わらねぇよ」
「……そう」
紡は小さく息を吐いて、首を傾げて見せる。
「それで。あなたたちの目的は何? ずっと私に付き纏ってきてたの、あなたたちでしょう」
「あ? 何だ、お前。今自分がどんな立場にあるのかも知らねぇのか? 流石はヤクザんとこの箱入り娘だ! その吞気さは羨ましいねえ」
男は下卑た笑い声を上げながら、紡に語って聞かせて見せた。
「金守紡。お前には闇サイトで懸賞金がかけられてんだよ。しかも、その額十億だ!」
「……!」
自分にそこまでの大金がかけられていることに、信じられないと目を瞠る紡。男はそんな紡の反応に気をよくしたのか、勝手にベラベラと内情を話し始めた。
「お前みてぇな女に、何で十億もかけられてんのかは知らねぇが、こっちとしてはいい儲け話だ! とにかく、お前の身柄を懸賞金出してる闇サイトの仲介人に引き渡すだけで、俺たちはヤクザにも負けねぇ大金を手に入れられる!」
男の話を聞いていた紡は、密かに呆れて息を吐いた。
(なるほど。ヤクザを解ってない、金目当ての半グレだけがうじゃうじゃ湧いてくるわけだ……)
どうやらこの半グレたちは金目当てでしかないようで、紡が狙われ、懸賞金がかけられている理由までは全くもって知らないらしい。
やはり、半グレたちをいくら叩いても無駄なのだと、紡は察した。叩くなら、半グレたちの言う「闇サイト」を調べる方が有益だろう。杏珠に会ったら、そのことを相談しなければ。
紡が内心でそんなことを考えていると、半グレたちが立ち上がり、玻璃の方へと集まってきた。紡ははっと息を吞んで、玻璃のそばへと駆け寄り、半グレたちの前に立ちはだかる。
「お前には感謝してるんだぜ? 金守紡。お前のおかげで、こんな大物のお友達まで攫ってこれたんだからな……銅本玻璃。こいつも売り飛ばしちまえば、いい金になる」
「……やっぱり。私はともかく、玻璃にも手を出す気? やめたほうがいい。この男も、関わったら碌なことにならないよ、半グレさん。自分たちの身を滅ぼすだけだ」
紡の強気な言葉に、半グレたちは顔を見合わせて、品の無い嘲笑を上げる。
「これだから、箱入りのお嬢様とピアニストのお坊ちゃんは……世間知らずも行き過ぎて、死ぬほど笑えてくるぜ! 特に金守紡。お前は今から
半グレたちは嗤いながら、紡を捕えようと手を伸ばしてくる。
紡は状況にそぐわない柔らかな微笑みを浮かべて見せるが、同時に酷く冷めた低い声を半グレたちに突き刺した。
「こういう時だけは、女に生まれてよかったと思う。馬鹿は簡単に私を舐めてくれるから」
次の瞬間、紡は近づいてきていた二人の半グレへと揃って、強烈な跳び蹴りを顔面に打ち込み、それぞれ一撃で伸してしまう。
「なっ……何しやがる! この野郎、ごはっ!?」
不意に、紡の背後から逆上した半グレの一人が襲い掛かってくるが、半グレは下から飛び出してきた鋭い蹴りの一撃に顎を突き上げられ、倒れる。
「紡は野郎じゃないよ。それと……」
耳慣れた、爽やかな男の声が小さく笑った。しかし次の瞬間には、誰もが震えあがってしまいそうなほどにドスの効いた声が、低く唸る。
「こちとら、
紡が目だけで振り返ると、そこには紡と背中合わせになるように、並み外れた身体能力で跳ね起きた——眠っていたはずの玻璃の姿があった。
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