第14話 硝子の姉弟

 紡と杏珠の姿が見えなくなるまで見送った瑠璃は、深い溜め息を吐き出しながら、明るい金髪をおもむろに掻き上げた。


「おい、玻璃。あんた、なんかいらんこと企んどるやろ」

「んー? さあ」

「クソ弟が」


 弟はいつものように、胡散臭く笑うだけだった。瑠璃は思わず盛大な舌打ちをして煙草を咥えると、安いライターで火をつけた。しばらくは紡の言いつけを守って禁煙するつもりだったのだが、今はそうも言っていられないほどに、胸騒ぎがする。


「あの、銀木って男。どう見てもやあらへんな。紡、なんかえらい大事を隠しとる……あの子が今のところ大丈夫って言ってるんだから、大丈夫なんだろうけど。しばらくは様子見ね」

「お。瑠璃も気付いてたんだ?」

「当たり前でしょ。で、玻璃。あんた、あの銀木とかいう男に余計なこと言って、刺激したりしてへんやろうな?」


 呑気に笑う弟を、瑠璃は鋭く睨み上げる。


「そうだな……『殺す』、って言っちゃった」


 玻璃は小さく舌を出して、へらへらと笑った。そんなふざけた弟の頭を容赦なく引っ叩き、瑠璃は煙草の煙と共に、大きく溜め息を吐き出す。


「ドアホが。ったく、ほんまヤンキーは血の気多くて敵わん……紡に何か影響あったら、あんたから殺したる」

「でも、紡はやわな人じゃないから。俺たちが色々心配しても、余計なことになるかも」

「まあ……紡は強い女・・・やからな」

「それよりも、銀木杏珠。あいつたぶん、裏の世界にいていい人間じゃない。俺、人を見る目あるから、わかるんだ」

「はあ?」


 声を弾ませる弟に、瑠璃は眉根を寄せて訝しむ。しかし玻璃は、変わらず子どものような無邪気な眼差しをきらめかせた。


「銀木杏珠。何かのきっかけさえあれば紡の時みたいに、あいつも——最高の〝金木犀〟になるかもしれない。今度のコンサート、まじ楽しみ」

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