第9話 金木犀と金色硝子
「えっと、この子も私の友達で、名前は
紡は隣に座る杏珠へ、向かい側の席に座る昔馴染みの男——
「え~。なんかもっとあるだろ、紹介。俺と紡、幼馴染みじゃん」
「そうだけど。……というか、それより! 何で瑠璃じゃなくて玻璃がここにきてるの!?」
紡が問い詰めると、玻璃はくすりと笑って肩を竦めて見せた。
「だって、俺も久々に紡に会いたかったから。瑠璃から聞き出して、ついでに瑠璃に俺の撮影押し付けて……きちゃった」
「きちゃった。……じゃない! 撮影って、また仕事ほっぽり出したの!? 今をときめくピアニストなんだから、何でも仕事は大事にしなって、あれほど……」
「小言は後で瑠璃から聞きますので。今は結構!」
頭を抱える紡と、楽しそうに笑っている玻璃の両者を見比べて、杏珠が首を傾げる。
「撮影……ピアニスト……?」
「あれ。杏珠、知らない? ヴァイオリニストとピアニストの銅本姉弟」
「いえ……すみません、知らんです。おれ、テレビとか見らんから」
「ああ、そっか。じゃあ、一応言っとくと……玻璃は所謂〝天才ピアニスト〟。ピアノだけじゃなく、まあ、顔は良いから。今じゃモデル業とかもやってて、姉弟揃って芸能界で引っ張りだこなんだ」
紡の解説に杏珠は「そうなんですか」と頷き、玻璃は嬉しそうにテーブルに頬杖をついた。
「紡、俺の顔好きだもんね」
「うるさい」
「俺のピアノもめちゃくちゃ好きだしね」
「……ピアノはね。ピアノは」
紡の反応を一通り楽しんで満足したのであろう玻璃が、その大きな目を見開いて更に笑みを深くすると、次は杏珠へと強い視線を向けた。
「んで。そのヒトは? 紡のコイビト?」
玻璃の発言に紡は飲み物を噴き出しかけるが、杏珠は一切動じることはなく、紡にハンカチを差し出してきた。紡は杏珠からのハンカチを断り、自分のハンカチで口を押さえながら玻璃に向かって大きく断言する。
「断じて違う! この人はその……今お世話になってる親戚の家の人!」
紡が横目で杏珠に目配せを送ると、すぐさま意図を察した杏珠が、玻璃へと小さく頭を下げて見せた。
「申し遅れました。おれは銀木杏珠といいます。うちの親父に、紡さん一人を出歩かせるのは心配だとせがまれて、勝手についてきたんです。突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」
「そのことは全然いいよ。むしろ、面白そうなヒトに会えて俺も嬉しい。それにしても、めちゃくちゃカッコイイね? 髪色も俺すげぇ好き。地毛? あ、あとアンちゃんって呼んでもいい? アンちゃん、俺と同じくらいに見えるけど、歳はいくつ?」
矢継ぎ早に杏珠へと質問を投げる玻璃を、紡が半眼で制する。
「ちょっと、玻璃。初対面から色々聞き過ぎだし、馴れ馴れし過ぎ。まさか、口説いてるつもり? 玻璃は老若男女、見境なしなんだから……」
「面白そうなヒトは口説きたくなるもんだからな。仕方がない」
肩を竦めて、悪びれも無く笑う玻璃に、紡が呆れて小さく息を吐く。だが、質問攻めにされた杏珠は涼しい顔で玻璃へと答えた。
「おれのことは、何と呼んでもらっても構いません。体毛は生まれつきのもんで。それと、歳は今年で三十です」
「は!? さんじゅ……!?」
そこで一番に声を上げたのは紡だった。次いで玻璃が「ほーう。意外」と全く意外そうじゃない声を漏らす。
ひどく驚愕した顔でまじまじと顔を見てくる紡に、杏珠が訝しむように首を傾げた。
「三十って……どう見ても、今年で二十二の玻璃と同じくらいか、それより年下に見えるのに……私より五歳年上……その顔で三十、アラサー……」
「何です。おれの年齢に何か文句でも? 紡さん」
「いや、文句はないんだけども……」
ぶつぶつと唸る紡に玻璃はくすくすと笑いを零すが、すぐに大きな目を細めて紡たちに顔を近づけてきた。
「紡とアンちゃんって一緒に住むほど親しい親戚同士なんだろ? それにしては、紡はアンちゃんの歳も知らないなんて……二人は、最近知り合ったばかりっぽいね」
何やら探りを入れてきた玻璃に、紡は密かに息を吞みながら眉根を寄せて見せる。
「別に、そういうこともあるでしょ。何か言いたいことでもあるの、玻璃」
「うーん? そうだな。でも、やっぱり」
玻璃は口元を隠すように両手を組んで、
「なーんか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます