第4話 金木犀と極道の親
老いた男は立派な執務机から立ち上がり、紡を目の前にあるソファーの一つに座るよう、手で指し示して促す。紡は背後に控えていたあの男にも促されて、上等なソファーの隅っこに腰を下ろす。老いた男も紡の向かい側のソファーへと座るが、ここまで紡を連れて来た男は、部屋の扉の前に静かに佇むばかりだった。
「突然、このような所まで足を運んでもらってすまない。金守紡さん」
足を運んだ、というより。無理やりここまで連れ去られてきたと言う方が正しいのだが。と、紡が内心で小さくぼやく。しかし同時に、老いた男が、当然のように紡の名を口にしたので、紡は目を丸くして、老いた男を見返した。そうして紡は、意を決して、老いた男へと口を開く。
「あの……あなた方は、私のことを知ってらっしゃるようですが。それは何故です? あなた方は、その……ヤクザ、なんですよね?」
硬い声を絞り出した紡に、老いた男はゆるりと頷いて見せた。
「ああ。私は君をよく知っている。君がここに来てもらった理由と合わせて、それは後ほど話そう。ますは、名乗らねばならないな」
老いた男は、猛禽のような双眸を鋭く細めて、淡々と語った。
「六代目
「……!」
紡は思いがけず、大きく目を見開いて驚愕した。
ヤクザについては、元マル暴だった祖父雪繫に多少聞かされて育ったので、それなりに知識はある。
六代目
紡は全身に走る緊張を何とか拳を握って押さえながら、烏藤次晴に視線を向けた。
「……そうですか」
「随分と、落ち着いているな。ヤクザと会うのは初めてだろうに」
「初めて、ですけど……育ての親が、ヤクザ顔負けの怖い人でしたから。ちょっと、慣れているようなものです」
「ふっ……確かに、雪繫さんはヤクザよりも恐ろしい人だった」
次晴はどこか懐かしそうに目を細めて、なんと紡の祖父の名を口にした。紡は思わず驚きと共に声を上げる。
「え! 祖父を、ご存知なんですか……?」
「ああ。よく知っている。何せ、私は——金守紡さん。あなたの、父親だった男だからな」
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