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「もし神がいたら、さぞ不思議に思うでしょうね。いつ死ぬかも、いつ誰を死に追いやるかもわからない仕事なのに、こんな感情を持つなんて」
「そうですね」
でも、と夏目は続けた。
「だからこそではないでしょうか。こんな時間も、尊いと思えるのは」
それからは、静寂が続いた。
正確に言えば、雨音は一層激しく、教会に響き続けた。
新井と夏目は、互いの心臓の音が重なり合うのを感じていた。この感情に名前をつけることはできないだろう。
だが、確かに感じるのは、今、お互いが同じ気持ちだということだった。
誰もいない、2人だけの時間。
これまで決して繋がることのなかったものが、腹の底から込み上げてくる、この感覚…
沈黙は続いた。
何も聞かず、何も言わず。
再び稲妻が光る。
数秒後には、胸に響く雷鳴。
互いが互いの動きを感じて、視線を交える。
夏目が軽く首を傾げるが、新井は「なんでも」と目を伏せた。が、再び夏目の視線を感じて見つめ返す。
薄暗くよく見えないが、確かに、その潤んだ瞳は新井の心を掴んで、まるで離さなかった。
気配を感じていた。三度、雷光がこの場所を照らすことを。
そして、予期されたタイミングでその光はやってきた。
その瞬間、ふたつの磁石は瞬時にして距離を縮めた。
大きな雷鳴が鳴り響くと同時に、二人は引き金が引かれたような衝動に駆られ、そして、唇を重ねた。
熱く、激しいそれは、まるでその時を待っていたかのように二人を夢中にさせた。
雷雨も、風も、冷気も、暗闇も、何もかも感じられない。感じることのない、その時間。
それは、二人にとってまさに特別であり、そして、特別でない時間だった…。
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