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世間の混乱を避けるために、新井たちの仕事の内容はほとんど報道されることはない。

政治家やお偉いさんたち絡みの件を担うことが多い以上、関係各所には圧力がかかる。


今日に関しても同様だろう。

犯人が狙撃され死亡、などと報道されるはずがない。新井たちがいる世界では、拳銃の使用はドラマや映画だけの話ではないほどに日常的かつ秘密裏に使用されているものだ。


だからこそ、生と死の狭間に立つことも少なくない。

守るべき命、守れない命。救うべき命、奪うべき命。その選別を強いられることもあれば、神によって選ばれる側に立つこともある。もっともそれは、今目の前にあるような神が存在すればの話だが。


再び明るく雷光が2人を照らし、そして雷鳴が鳴り響いた。


新井が口を開く前に、夏目が澄んだ声色で言った。


「もし、ここに神様がいたとすれば、私たちをどう見ているのでしょうね」


新井は「どういう意味ですか?」と尋ねた。


「私も、わかる気がします。新井さんが言った、ずっと忘れていたような気持ちが…。なんだか、とても大切な時間に思えます。今、こうしてここにいることが」


「もし、神様がいたら、ですか」


「おかしいですか?私らしく、なかったですね」


「夏目さんらしいかどうかはわかりません」


「そうですよね」


そう言う夏目は、貴方はそういう人です、とでも言いたげに頷いた。

新井はステンドグラスを見上げたまま続けた。


「ただ、らしくないのは、俺もそうだと思います。貴女はとっくにそう思っているかもしれませんが」


夏目は小さく笑った。

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