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雨音は次第に強くなる。
それと同時に、2人だけの空間が色濃く作られていくようだった。
普段は堅物と呼ばれる新井が、初めて見せた人間味のある姿。
夏目は柔らかく目を細めて、再び腰かけた。
「はい。もう少しだけ…」
その後天気は悪化する一方だった。
風が吹き乱れ、窓ガラスがガタガタと揺れた。こんな古い屋根が簡単に吹き飛んでもおかしくないほど、数カ月に一度あるかないかの大嵐のようだった。
今更外に出ることも出来ない。寧ろ危険と思われるほどの強風だった。周囲の木が激しく揺れ、外壁に幾度となく当たっていた。
一段と暗くなり始めた頃、ステンドグラスからカッと激しい光が入り込み、すぐさま大きな雷雨が鳴り響いた。
体中に響く振動に、かなり近いところに落ちたのがよく分かった。
「だいぶ冷え込みましたね」
夏目がそう言うと、新井は「すみません」と呟いた。新井が謝罪の意味を言う前に、今度はドンッとまた一段と激しい音と振動がした。
これには思わず驚いて、2人が音のした方、扉の方に駆け寄った。
新井が扉を開けようと押すが、まるでびくともしない。2人は互いを見合わせて、まさかといった表情で再びドアノブに手をかけた。
今度は2人がかりで扉を押すと、わずかな隙間ができ、そこから雨風が勢いよく入り込んで来た。
その隙間から、扉が開かない理由は折れた木がちょうど扉に倒れ掛かっているためだと分かった。
これにはさすがの2人もお手上げで、早々に諦めようと、言葉を交わさずとももといた場所に戻った。
「すみません、俺がわがままを言ったばっかりに」
今度は反省した顔でそう言う新井に、夏目は「ふふ」と笑った。
新井が顔を上げると、「いえ、ごめんなさい」と夏目は腰かけた。
「一度に、こんな色々な表情の新井さんを見られると思わなかったから」
新井は至って真面目な顔つきだったが、不本意だと言いたげなのを察しられたのは、夏目の観察力だからこそだろう。
「本当に不思議なことばかり起きますね」
夏目がそう言って柔らかな笑みを見せると、新井も僅かに口角が上がった。
「久々に、こんな気持ちになれました」
「こんな気持ちって?」
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