第102話

「ハァ……ハァ…。」




呼吸を整えながら、首を傾げて夜紘君を見つめる。


少しして顔を顰めた相手に、途端に恐怖に襲われた。




「ごめ…ごめんなさい…私…。」



怒らせてしまった。


夜紘君の顔色を窺ってそう判断した私の声は、情け無い程に震えている。





「おい、落ち着け…「ごめんなさい、怒らないで…お仕置きはやだ……。」」





怒らせたかったわけじゃないのに。


ひー君はいつも怒ると「お仕置き」をしてくる。



気を失うくらいの快楽浸けにされて、自分が壊れそうで怖くなる。



夜紘君も…お仕置きをするのだろうか。



そう考えると、身体が震えて止まらなくなる。




「日鞠は悪い子だね、お仕置きだよ。」



この場にはいないひー君の声が、聞こえてくるような錯覚にすら落ちてしまう。





「お仕置き?」




夜紘君が眉間に皺を寄せた。




「お前、震えてる…お仕置きってどういう事だ。」




怖い。



また苦しくなるくらいの快楽に犯されてしまうのだろうか。





「日鞠、愛してるよ。」


「ほら、早く愛してるって言って。」


「僕を愛してるって言えよ。」


「日鞠?愛してるは?」


「日鞠。日鞠。日鞠。」




口許は笑っているけれど、瞳には激しい憤りを燃やしているひー君がフラッシュバックする。


快楽に犯されながらひー君に脳に刻み込まれた言葉達が、じわじわと身体を支配する。




怒らないで。


ひー君の言う事を聞くから。


ちゃんと良い子にするから。






「日鞠、しっかりし…「捨てないで。私の事、見捨てないで……ひー君。」」






混濁した思考の中、私の手が掴んだのは、いつもの華奢なひー君の腕ではなく、筋肉が綺麗についた夜紘君の物だった。

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