第97話
生憎保険医が席を外しているらしい保健室は、酷く静かだった。
ベッドの上に寝かされた千智君は、苦しそうに顔を歪めたまま意識が戻る気配はない。
「……。」
「……。」
薬品の匂いが充満している空間で、誰も開口しないせいか空気が重い。
大丈夫かな。
心配が拭えない。
それと同時に、魘されている千智君を見守る事しかできない自分を情けなく思う。
「授業、行かなくていいのか。」
鳴り響く授業の開始を知らせる合図。
流れていた沈黙に終止符を打ったのは、夜紘君だった。
「千智君が心配だから行けないよ。」
こんな状況で授業なんて受けられない。
首を横に振りながら相手の問いに答えた。
教室に戻った所で、千智君が気になって何も手に着かなくなるのは目に見えている。
「………俺と二人きりなのが怖くないのか。」
「怖くないよ。」
余り表情は変わらないように見えるけれど、夜紘君の目は千智君を案じている。
そんな優しい彼が怖いはずなんてなかった。
「変な奴だな。」
「………。」
小さく息を漏らす夜紘君の美しい横顔からは、やはり何を考えているのか読み取る事はできない。
「発作だ。」
「え?」
「疲れが溜まると決まってこうなる。俺とは違ってこいつは冷徹に見えるが心があるから苦痛に魘される。」
「……。」
「だから心配するな、いつもの事だ。」
色のない瞳が千智君を映している。
「俺とは違う。」そう言った夜紘君の方が、私には何倍も苦しそうに見えた。
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