第96話

廊下を行き交う男子生徒と全く同じ制服を身に纏っているはずなのに、千智君はやけに人の目を惹いてしまう。



注目を集めているにも関わらず、本人はさして気にしていない。



麗しい顔に、優しい笑みを浮かべているのはいつもの事だけれど、少し様子が可笑しい事に気づく。





「千智君、顔色悪いよ。」


「え?」


「体調悪いの?」


「え、あはは、平気だよ。」


「本当?」




よく見たら冷や汗も浮いている。



とても平気そうには見えないし、分かりにくいけれど息だって乱れている。





「やっぱり休んだ方が…「ヒマちゃんの顔が見たくて。」」


「え?」





私の肩に手を置いて、顔を覗き込んできた千智君と瞳が合う。





「この、綺麗な瞳を見たかったんだ。」


「……。」


「良かった、見られて。安心し……た…。」


「え…千智君!?!?」





目を伏せて倒れ込む千智君の身体。


咄嗟に手を伸ばしてみたけれど、相手は男の子で、筋肉がない私ではすぐに限界を迎えてしまう。


通りすがりの人達からは、徹底的に視線を逸らされてしまった。




やっぱり体調凄く悪いんだ。



荒く息を繰り返す千智君の身体を何とか支えてはいるものの、私諸共体勢が崩れるのは時間の問題だった。




どうしよう、早くしないと…。




「どうした。」




不安と焦りを募らせながら辺りを見渡す私に降りかかったのは、すっかり聞き慣れた低い声だった。




「千智君、体調良くないみたいで倒れちゃって。」


「貸せ。」





事情を聞くなり、片腕で軽々と千智君を担いだその人は乱れた黒髪を軽く掻きあげた後、私を見下ろした。




「保健室行くぞ。」


「う、うん。」




視線が大量に注がれる中、平然と歩き始めた夜紘君。



広い彼の背中を、私もすぐに追いかけた。

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