第95話

休み明けの月曜日。



廊下から覗く外の景色は、生憎の雨模様。



日本列島が梅雨入りしたみたいだよと家を出る前に影十が教えてくれた。





「はぁ…。」




天気が悪いと気も滅入ってしまう。



猫っ毛の私の髪は湿気に弱く、梅雨の時期は手入れにどうしても時間が掛かる。



どうやってもストレートになってくれず、今日は泣く泣く緩めに三つ編みをしてごまかしたけれど、これから暫くはこんな日々が続くのだと思うと憂鬱だ。




「僕が日鞠の髪の手入れくらいするよ?寧ろさせてよ。」




悩みを吐露した私に、優しい幼馴染はそう言ってくれたけれど、いつまでもひー君に頼るわけにもいかない。



きっと手先が器用な彼なら、髪のセットも容易にこなすのだろう。






「ヒマちゃん。」


「きゃっ。」





ぼんやりとしながら廊下を歩いていた私は、突然背後から誰かに抱き着かれた。



その拍子に肩がビクリと揺れる。






「驚かせちゃった?おはよう。」




すぐに正面へと回って来て梅雨の湿度も吹き飛ばすくらい爽やかに笑うその顔を見て、私も漸く笑顔を見せた。




「おはよう、千智君。」


「ん、ヒマちゃん今日おさげだね、可愛い。」


「……っっ。」




三つ編みされた髪に触れる千智君からさらりと吐かれた一言に、顔が火照ってしまう。




最近、ひー君以外に私を「可愛い」と言ってくれる男の子が増えた。



それが目の前にいる千智君だ。

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