第94話

きっと影十にだって明確な理由があってひー君を遠ざけているんだと思う。



だけど、その理由が私には分からない。



ずっとずっと、探しているけれど見つからない。





「日鞠、今夜両親が家を開けてて寂しいんだ。」


「そうなの?」


「うん、日鞠が僕と寝てくれるよね?」


「え……。」





影十から目を逸らし、私にアーモンドアイを向けるひー君に私は戸惑う。



どうしよう、今日はピアノの練習をしたかったんだけどなぁ。




「ほら、行こう。」


「あ、待ってひー君私…「日鞠は僕の事独りにはしないよね?僕日鞠がいないと生きていけないんだよ?」


「いっ……。」




強引に私の手を取ったひー君が、握っている手に力を込める。


余りの強さに痛みが走って顔が歪む。




「僕、日鞠が一緒に眠ってくれないと死ぬからね。」


「………。」




彼の綺麗なアーモンドアイに涙がじわりと浮かんだ。


太陽の光に反射するその滴は、キラキラと輝きを放って宝石みたいだった。



ひー君が悲しむと胸が痛くなる。




「日鞠は、僕を見捨てないよね?」




苦しそうに表情を崩す彼を見ていられなくて、私は深く頷いていた。




「…今日はひー君と一緒にいるね。」


「本当?」


「うん。」


「ふふっ、嬉しい。それじゃあ早く行こう。」





腕を引かれるがまま、ひー君に外へと連れ出される。





「この異常者。いつか僕がその化けの皮剥がしてあげるから。」





背中に掛かった声は、やはりひー君を嫌悪する物だった。





「あはは、やってごらんよ。」




彼の後ろに隠されたせいで、振り返ったひー君が一体どんな表情をしているのか、私には分からなかった。



ただ一つ分かった事は…。




「この化け物め。」




影十とひー君の溝が、更に深く大きなものになった事だけだった。

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