第88話

影十には、私が見ているひー君とは違う彼が見ているのだろうか。




私はひー君を優しいと思うけれど、影十は彼を残酷だと言う。



折角あいつがいないんだから、もうあいつの話は止めにしようか。そう言ってジュースをグラスに注いだ影十は、ゲームを止めて私の隣に腰掛けた。





「お姉ちゃんと二人きりって久しぶりだね。」


「ふふっ、そうだね。」





彼の事をやたらと厭う弟だけれど、本来は素直で良い子で可愛い存在だ。



肩に頭を凭れさせて甘えるように擦り寄って来る影十の髪をそっと撫でる。





「学校慣れた?」


「うん。」


「困った事とかない?」


「大丈夫だよ。」


「本当?」


「もう、影十は心配し過ぎだよ。」




これではどっちが年上か分からないなと胸中で思う。



私はそんなに頼りなく見えているのだろうか。


真剣な顔でママみたいな質問責めをしてくる弟に苦笑が漏れる。




「そりゃあ心配だってするよ。まさかあの私立に行くとは思わなかったからね。」


「ん?私の高校がどうかしたの?」


「お姉ちゃんの学年に問題児も入学してるらしいよ。」


「……。」


「朝日と神楽?だっけ?」


「え!?」





思い出すように影十が口にした人物の名前に、私は聞き覚えがあった。




「お姉ちゃん知ってるの?」


「えっと…。」




朝日と神楽。それはきっと千智君と夜紘君の事だろう。



私の頭には、完璧に整った美しい顔が二つ浮かんでいた。

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