猛毒 三

致死率30%

第86話

穏やかな土曜日。



仕事のパパと、買い出しに行ったママ。




静かなリビングにいるのは私と、影十だけだ。


ひー君が隣にいない休日なんて久しぶりな気がする。


楽譜を捲りながら、飴玉の包みを剥いで口へと放り込む。





「今日はあいつ、いないんだね。」





ゲームに熱中していたはずの弟は、いつの間にかテレビからこちらに視線を移していた。



あいつ。



その言葉が指すのはひー君の事だろう。




「うん、ひー君大切な用事があるって言ってた。」


「大切な用事だなんて、嫌な予感しかしないね。」


「嫌な予感?」


「お姉ちゃんは知らなくて良いことだよ。」




忌々しそうに眉間に皺を寄せて顔を歪めた影十だけれど、私が聞き返した途端柔らかく微笑む。



何かを、隠されているような気がした。




「影十は、ひー君の用事が何か知っているの?」


「知ってはいないよ、ただ大体想像がつくってだけ。」


「そっか。」




私の方が影十よりもひー君と一緒にいるはずなのに、私には想像すらつかない。



少し胸がモヤモヤする。



多分、当然のようにひー君が何をしているのか想像がつくと言える影十が羨ましいんだ。



そんな弟に、私は嫉妬しているんだ。




「お姉ちゃんはどう足掻いたってあいつが今何をしているのかは分からないよ。」


「え?」



まるで私の気持ちを察するような発言をした影十は、頬を引き攣らせていた。

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