第84話
少しすると千智君はすっかり私の知っている彼に戻っていた。
「ヒマちゃん好きな食べ物ある?」
「えっと…。」
千智君からかれこれ30分くらい質問攻撃を受けている。
好きな食べ物かぁ。
ひー君が作ってくれるスコーン。
ひー君が作ってくれるグラタン。
ひー君が作ってくれる肉じゃが。
考えてみても頭に浮かぶのは、ひー君の手料理ばかり。
私、本当に彼がいないと生きていけなくなっているんじゃないのだろうか。
改めてひー君に甘やかされている現実を痛感し、一抹の不安を覚える。
「えっと…甘い物かな。」
何とか絞り出して出たのがそれだった。
勿論主語には「ひー君が作った」が入るのだけれど、彼の名前を出しても恐らく、千智君は知らないだろう。
「想像通りだね。」
「そうかな?」
「うん、ぴったりだよ。可愛いヒマちゃんに。」
「………からかわないでよ。」
「ん?からかったつもりなんて少しもないけど?」
人生で初めて、ひー君以外の異性に「可愛い」と言われた。
千智君の真剣な瞳は嘘や冗談を言っているようにも見えない。
……私が可愛いなんてあるわけないよ。
自信がない。
自分の容姿、性格、頭脳、全てにおいて胸を張れるものがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます