第82話

私の反応に少し目を見張った千智君は、困ったように微笑んだ。




「ヒマちゃんって怖いくらい純真だよね。」


「へ?」


「俺もだよ。」


「……。」


「俺も、ヒマちゃんに会えて嬉しい。」





髪の毛を掬い、撫でるように指を滑らせた千智君が艶やかで、頬に熱が集中する。





「そういう所も困るよ。」


「困る?」


「反応が一々可愛い。穢れなんて知らないその純真な瞳を無条件で向けてくる。」


「千智君?」




ひらり、はらり。


彼の指先から零れて落ちる、髪の毛。





「無意識にこの瞳を見たくなってしまう。」


「……。」


「綺麗すぎて、怖くなる。」





私を見てはいるけれど、まるで独り言のように言葉を放っていく千智君。





「だから…。」





色のない双眸に映る自分の顔。




いつも優しい千智君だけれど、瞳だけは冷たい。


夜紘君は、もっと温度のない瞳をしている。






「純真すぎるヒマちゃんを俺が汚したくなってしまう。」





そう言った彼は、酷く美しい笑顔を湛えていた。

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