第81話

気分が降下するのも仕方がないと思う。


会いたかった人はおらず、身体は痛いまま。




こんな事なら、ひー君の言う事を聞いてお休みすれば良かった。


そんな後悔すら募る。




「はい。」


「…え?」




無残にも床の上に転がっている消しゴム。


それを拾い上げて、私へと差し出してきた手。




「これ、ヒマちゃんのでしょう?」




手から辿るように視線を上へと向ければ、千智君がそこには立っていた。


まだ一時間目が終わったばかりだというのに、珍しく早い時間帯から現れた人物に驚く。




「あ、ありがとう千智君。」


「どういたしまして。」





柔らかく目を細め、今日も私と自分の机をぴったりと密着させた彼。



それと……。




「お、おはよう夜紘君。」


「ん、おはよ。」




シトラスの香りを纏った綺麗な彼も、既に机をくっつけていた。





「今日は早いんだね。」


「うん、目が覚めたから来たんだ。最後の授業まで受けようかな。」


「本当?」


「ふふっ、嬉しい?」




彩愛ちゃんがいない寂しさも、この二人の登場で少し紛れるような気がした。



頬杖を突いて、私に問う千智君に素直に首を縦に振る。



嬉しい。



千智君は自分達の事を「怖い人間」だと言っていたけれど、やはり私にはどう見ても「優しい人間」にしか映らない。

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