第79話

もう数えきれない程絶頂を迎えた。



汗が滲む身体。


重なる肌。





「日鞠、愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。」





律動を速めながら、呪文みたいに私に囁く彼の声。





「日鞠は、僕の事愛してる?」




ほとんど我も残せていない私に投げられた問。


自然と、意識しなくとも、口が開く。




「う…ん…。」


「………。」


「愛してる。ひー君の事、愛してるよ。」





私のその一言を聞いた彼は、漸く私の首を解放してくれた。





「ゲホッ…ゲホッ…。」


「僕以外を愛したら、殺すよ。分かってるね?」


「ん…あっ…ぁあっ…。」


「ここ、赤くなっちゃった。痛かった?」


「ううん。」





痛くなんかないよ。


ひー君が喜んでくれるなら何とも思わない。


ひー君が私に笑ってくれるならこんなの平気だよ。




彼の表情が余裕を失ったのが分かった。



嗚呼、彼も限界なんだ。



すぐに悟る。






「日鞠愛してる。」


「ひー君っっ……。」





甘い甘い彼の香りが全身を覆う。


まるで、私がひー君に染まったような感覚に陥る。



絶頂を迎える寸前、彼が私の首筋に噛み付いた。


痛みを感じたのも束の間、身体の中で彼の熱が放たれたのを感じた。






『お姉ちゃんは、あいつの毒牙に冒されてるんだよ。』





意識が遠のく中、いつの日か私に向けて言った影十の言葉が脳裏を過った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る