第78話
もう随分とだらしない顔をしていると思う。
目も当てられないような酷い物だと自覚しているのに、ひー君は優しい顔でしみじみと吐く。
「可愛い。好き。日鞠を愛してる。」
劣等感と自己嫌悪で塗り固められた心も、彼のその言葉が一瞬だけど融かしてくれる。
この一時だけは、勘違いできるの。
ブスなんかじゃない。醜くないかもしれない。って、錯覚できる。
所詮は幻想だと知っていながらも、この甘さをもう知ってしまっている私は求めてしまう。
「あっ…あっ…あっ…。」
「ふふっ、焦点が合ってないよ。ほら、僕を見てよ。」
「んぐっ……うっ……。」
スプリング音と荒れた息。それから甲高い声。
理性を完全に失った私の首が突然彼の手で絞められて、少しだけ飛んでいた意識が戻った。
ぐにゃりと歪んでいた視界が正常に戻り、彼の美しい貌を瞳が捕らえる。
「やっと僕を見てくれた…。」
熱い息と共に歓喜に震える声でひー君が漏らす。
嗚呼、苦しい。
息ができないよ。
辛い。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
首に掛けられた手が離れる気配はない。絞める力も緩める様子はない。
「苦…し……。」
「これは気持ち良いんだよ、日鞠。」
「…気持ち…良い…。」
「そう、気持ち良いの。そして日鞠は僕の事を愛してるの。」
「愛してる…ひー君を…愛してる…。」
「うん。日鞠はね、知らないだろうけれど、首を絞めると日鞠の身体、余計に僕の身体を呑み込むんだよ。キツく締め付けてくる。可愛いよ。」
恍惚とした表情というのは、こういうのを言うのかな。
ひー君を見つめながら、働く事を放棄した脳でぼんやりとそう思った。
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