第74話

だって、ひー君がいなくなったら私には何もなくなってしまう。



怖い。



捨てないで。



お願い、何でもするから。



ひー君の為なら、私何だってできるよ。






「ふふっ、日鞠は可笑しな事を言うんだね。」


「あっ…あっ……。」




固くなった胸の突起を甘噛みされ、身体が弓のようにしなう。



歯を立てられ、少しヒリヒリとするそこを今度は優しく舐める舌。



異なる刺激を処理しきれない身体は、言葉にならない声を上げる事しかできない。





「綺麗だよ、日鞠。」




滲む汗で額や首筋に張り付いた髪を、指先でそっと払いのけてくれた彼から落とされる言葉。




「綺麗だよ、世界で一番。誰よりも、日鞠は綺麗で可愛い。」




甘くて優しいその言葉が、心に常にある不安をこの一瞬だけは払拭してくれる。





「…本当?」


「うん、好き。日鞠の事、僕がこの世で一番愛してる。」





嬉しい。





ひー君だけ。


彼だけが、私の心を救ってくれる。





「ひー君…ひー君…。」


「そう、日鞠はそうやって僕の事だけ考えていれば良いの。お利口さんだね。」





ひー君が褒めてくれる。


見捨てないでいてくれる。



情けないと思われても良い。


滑稽だと嗤われても良い。




それでも私は、ひー君以外に……。




「日鞠には僕しかいないんだよ。勿論僕にも日鞠しかいないの。分かった?」


「うん。」




縋れる人がいない。

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