第71話
腕を引かれ、身を沈められた先は彼のベッドの上。
甘い甘い、ひー君の香りに包まれる。
私の身体に跨ったひー君は、躊躇なく私の服に手を伸ばす。
一つ、また一つ。
釦が外されていく。
露わになっていく肌に散る花弁は、減るどころか日々増えるばかり。
「今日も綺麗に咲いてるね。」
「………。」
そう言った口許には弧が描かれている。
美しいその顔は、何度見ても慣れないし、何度見ても心惹かれる。
語彙力に乏しい私では陳腐な言葉しか出てくれないけれど、本当に綺麗だ。
「Sah ein Knab' ein Röslein stehn」
「……野ばらの歌詞……。」
「そう、流石だね。」
褒め言葉を落としてくれるけれど、流石なのはひー君の方だ。
さらりと述べたドイツ語は訛りが一切ない。
彼のドイツ語が見事なのは分かるけれど、今まさにこの部屋に流れている曲の歌詞を口にしたひー君の意図が私には汲み取れない。
「男の子は野に咲く薔薇を見つけました。」
「え?」
「野ばらの日本語訳だよ。」
博学だなと思う。
幼い頃からクラシックは習って来たけれど、私はこうして歌詞の和訳まで勉強した事はない。
「僕もね、美しい薔薇を見つけたんだ。」
「そうなの?」
「うん、その薔薇はね美しいけれどたった一本しかこの世に存在してないんだ。」
「………。」
「摘んでしまってはすぐに枯れてしまうでしょう?でもどうしても僕だけの物にしたい。」
「その薔薇、どうしたの?」
「どうしたと思う?」
到底答えなんて導き出せそうにない問い掛けに、早々に諦めて首を横に振った。
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