第69話

ひー君の事だ。


ジャムも、クロテッドクリームだって、ひー君の手作りに違いない。



そんなに無理しなくても良いよって、前に言ったことがある。



「どうして?何処の馬の骨かも知れない人間が作った物が日鞠の体内に入るなんて耐えられないよ。別に無理してないよ、日鞠の身体の中も、僕で染めたいだけ。」




当然だと言わんばかりの表情で私に返事をした彼に、反論の言葉なんて出てきやしなかった。



過保護すぎるよ…。



本当はそう思った。




その時だけじゃない。今だって毎日のようにひー君に対して思う事。




彼が私を甘やかすから、自分が何もできない人間になってしまいそうで怖くなる。



いかなる時も、全てを犠牲にして私を優先してくれるひー君には、申し訳なくなってしまう。




彼にはもっと自分の時間を大切にして欲しい。







「どう?美味しい?」




テーブルの縁に身体を預けているひー君。


その頬にはえくぼが浮かぶ。





「うん、すっごく。」


「僕にも、頂戴。」


「ま、待って……「駄目、待ってあげない。」」




いつもは優しいけれど、彼は時々意地悪だ。



咀嚼途中の私の口を塞ぎ、やがて口を搔き乱す彼の舌は私の舌を熱心に絡めとる。




逃げられない。




その熱から。



その行為から。





「ん、美味しいね。」




頬が火照る私とは対照的に、彼は余裕な表情でぺろりと唇を舌で舐めた。



それさえも色っぽいのは全く狡い。

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