第58話

ちらり、視線を左に滑らせれば頬杖を突いて窓の外を眺めている影が映り込む。



吹き込む風に揺れる黒髪は、触ると柔らかそうだ。





「あ……。」


「………。」




私からの視線を感じ取ったのか、こちらを向いた彼と目が合った。



綺麗な双眸。けれど、やはり色や光がないように感じる。



彫刻されたみたいに整ったその顔は、無意識の内に魅入ってしまう。






「…紘。」


「え?」


神楽 夜紘かぐら やひろ。…夜紘で良い。」




短く、不愛想に放たれた一言。


突然の事で、自己紹介をしてくれたのだと理解するのに少し時間を要した。




「よ、宜しくね、夜紘君。」


「ん。」






合わさっていた視線はまた外の景色へと逸らされた。



よく分からない人だ。



横顔がとても妖艶で、つい見惚れてしまいそうになる。





「ヒマちゃん魔法使い?」


「へ?」


「夜紘が自己紹介する所初めて見たよ。…あはは、動画撮っておけば良かったなぁ。」



お腹を抱えて笑いながらも、丁寧にノートを取っている千智君。


器用だなぁ。




昔から注意散漫で不器用な私には到底できそうにない。


いつもいつも、ひー君が助けてくれたからここまで来られたような物だ。




「夜紘、授業受ける気ある?」


「…ちゃんと聞いてるから問題ねぇ。」




慌てて黒板を書き写す私の横で聞こえる会話。



きっと、千智君と夜紘君は仲良しなんだね。



数分前までは二人に対して恐怖心しか抱いていなかったというのに、不思議と怖いと思う感情はなくなってしまっていた。

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