第56話

怖いから嫌です。



そんな断り方はいくらなんでも失礼だ。




戸惑う私が視線を泳がせれば、目が合った人達が次から次へと逸らしていく。





「私でよければ…。」





結局、助け舟を出してくれる程の友達がいない私は彼からの要求を飲み込む事にした。





「本当?良かったぁ。」


「え…ちょっと…。」


「ん?どうかしたの?」




自分の机を引っ張ってぴったりと私の机に密着させた相手。




「近くないですか?」


「だって近くないと見えないでしょう?」


「………。」



それもそうだ。


彼が言っていることは最もで、言い返す言葉なんて見つからない。




「ほら、夜紘もくっつこうよ。」


「……。」





そんな誘いに乗るような人じゃなさそうだと勝手に決め込んでいた私を裏切り、無言のまま自分の机を引いた黒髪の彼に軽い衝撃を受ける。





「あれ、珍しく素直だね夜紘。」


「うるせぇ、黙れ。」






眉間に皺を刻んで睨み付ける彼はやっぱり威圧的だというのに、けらけら可笑しそうに笑っているブロンド髪の彼。




周囲の人が同情するような、哀れむような目を私に向ける中、授業は再開した。

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