第55話

折角両隣の席の持ち主が現れたというのに、この時点で仲良くなれたらなぁなんていう淡い期待は既に消滅してしまった。





できるだけこの二人とは距離を置いた方が良いのかもしれない。




胸の内に密かに立てた決意は…。





「えー、俺教科書持ってきてないや。」




隣から発せられた一言で見事に打ち砕かれる事になった。






「……。」




ただでさえいつも静かな授業だけれど、今日はそれに加えてずっと緊張感が走っている。



その原因は説明をするまでもなく、私を挟むように着席している二人にある。





「夜紘、教科書持ってる?」


「………。」


「夜紘~教科書~。」


「ちっ…うるせぇ。」





身体を起こしてブロンド髪の彼へと鋭い双眸を向ける黒髪の彼。



かなり威圧的な態度だというのに、ブロンド髪の彼は何てことなさそうにへらりと頬を緩めた。




「おはよう。」


「……。」


「教科書、持ってる?」


「持ってねぇ。」


「だよね、だって時間割とか知らないしね俺達。」




どう見ても機嫌が悪そうな相手に対して、笑みを絶やす事のない彼。



彼等が時間割を知らないのは当然だと思う。



何故なら、この二人にとってみれば今日が初登校日なのだから、知っているわけがないのだ。




「てことで、教科書見せてよ。」


「……。」


「ねぇ、聞いてる?」


「え!?」




黒板だけを見ていた私の視界を遮った綺麗な顔。



「教科書、見せて欲しいな。」




色の抜けた前髪から覗く目が細められた。

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