第53話

え……。




自分の耳を疑った。




「夜紘…。」


「名前も勝手に呼ぶな。」


「……っっ。」




残酷な事に、私の聞き間違いではなかったらしく、黒髪の彼がまた冷たい言葉を吐き捨てた。


彩愛ちゃんの顔が曇り、大きな瞳にじわりと涙が浮かんでいる。



そんな姿に胸が痛くなる。





それと同時に、怖いと思った。



平気で彩愛ちゃんを突き放す彼が。


一瞬たりとも彩愛ちゃんへ視線すら向けない彼が。


綺麗なのに、瞳に色のない彼が。



純粋に、怖いと思った。




「この光景何回目?もう見飽きたよ。」




溜め息交じりに、ブロンド髪の彼が言葉を漏らした。




クラスの人達が、彼等をやたら煙たがっていた理由が分かった気がした。




神楽さんも、朝日さんも……。




残酷な人だ






これが、やっと埋まった両隣に対して私が抱いた印象だった。

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