第52話
「夜紘、来てくれたんだ。」
「彩愛ちゃん?」
私の席から離れ、左隣へと駆け寄った彩愛ちゃんの表情は生き生きとしている。
瞳だって爛々としていて、酷く嬉しそうだ。
「……。」
「夜紘と同じクラスだったから嬉しくって。」
「……。」
「ずっと会いたかったんだよ。」
「……。」
彩愛ちゃんの声が聞こえていないのだろうか、黒髪の彼は何の反応も見せない。
こちらから見ると、まるで彩愛ちゃんが独り言を呟いているように見えてしまう。
「ねぇ、夜紘もう落ち着いたの?」
「……。」
「家の事、大変だったんでしょう?」
「……。」
無視を決め込んでいる黒髪の彼に対して、彩愛ちゃんの表情が変わる事はない。
相手が一切返事をしなくとも、彩愛ちゃんは気にも留めていない様子で話を続けている。
「あーあ、見てられないよ。」
はっきりと分からない二人の関係性に疑問を抱いていると、右から突然声が聞こえた。
反射的にそこへ向く私の視線。
「傷つくだけなのに、懲りないよね本当。」
頬杖を突いて、彩愛ちゃんと黒髪の彼へと目を向けながら呆れたような笑みを浮かべたその人。
傷つくだけ?
どういう事だろうか。
言葉の意図を考えるよりも先に…。
「黙れ、鬱陶しいんだよ。」
低い声が、私の耳を突いた。
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