第49話
変わっていない事はたった一つだけだ。
「また神楽さんと朝日君いないね。」
何処からか聞こえて来た声。
それに釣られてちらりと私の両隣を見てみるけれど、そこにあるのは空席のみ。
一ヵ月が経過したけれど、この席の持ち主には未だ会えていない。
そろそろ席替えをしようかと先生が言っていたから、恐らく私はここの二人と隣人にならないまま席を離れる事になるのだろう。
「どういう人なんだろう。」
入学から一度も姿を見せない二人に、どの教科担任の先生ももうすっかり諦めた様子だった。
「もう辞めたらしい。」
「すぐに退学になったんじゃないの。」
「どっちにしろいない方がありがたいよ。」
クラスメイトの間でも、二人はこの学校から除籍されたという噂が囁かれるようになった。
「そんなに怖い人なのかな?」
「ん?誰の事?」
心の声が無意識に漏れてしまっていたらしい。
私の言葉を拾った彩愛ちゃんが、首を傾げた。
「あ、ううん。私の両隣の人、一度も見た事がないからどんな人なのかなって思って…。」
大した事じゃないから気にしないでと、手を軽く振る私に対して彩愛ちゃんは驚いたように瞬きを繰り返した。
「え、日鞠ちゃん知らないの?」
「知らないって何を?」
「この二人の事だよ。」
「うん。皆の様子を見ていると有名な人達なんだよね?」
「有名も何も……。」
私の問い掛けに苦笑を浮かべた彩愛ちゃんが、言葉を続けようとした刹那だった。
騒がしかったはずのSHR前の教室が、一瞬にして沈黙に包まれた。
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