第45話

「日鞠、授業には慣れた?」


「うん。」


「何か不便してない?平気?」


「大丈夫だよ。」




私の髪を弄りながら、次から次へと質問を落とすひー君に思わず苦笑いしてしまう。



ママよりも心配性な彼は、自分の事よりも私の事ばかり気にしてくれる。





「そういえば、ひー君皆に格好良いって噂されているんだね。」


「……。」




さっき彩愛ちゃんが教えてくれた情報を思い出した私の言葉に、髪で遊んでいたひー君の手がぴたりと動きを辞めた。





「誰から聞いたの?」




次に落ちてきた声は酷く冷たくて、慌てて視線を滑らせれば無表情のひー君が映った。



グレイがかった瞳の瞳孔が大きく開いている。





「ねぇ、誰から聞いたの?」


「えっと…。」


「言えないの?まさか僕以外の人間と話してる訳じゃないよね?そうだよね?」


「痛っ……。」




続けざまに口を開く相手に戸惑っていると、ひー君の細長い指が私の首を強引に絞めた。


何の前触れもなく呼吸の手段を絶たれた私は、余りの苦しさに表情を崩す。





「日鞠には僕だけだよね、そうでしょう?そうじゃないと許さない。絶対に許さない。」


「……ひー君…。」


「どいつなの?良い子だから教えて日鞠。僕の可愛い日鞠に話しかけた無礼な人間の名前を。ね?ほら早く言って?」





手に込めた力を緩める事をしないまま、ひー君は目を細める。


私の頭に浮かんだのは、彩愛ちゃんの可愛い顔。


今、彩愛ちゃんの名前を口にすれば私は二度と彩愛ちゃんとお話しする機会を失ってしまう。




それだけは、嫌だった。

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