第43話
昼休み。
購買に走る人や、席をくっつけてお弁当を広げる人。
携帯を触ったり、流行のファッション雑誌を広げたり、話に花を咲かせたり。
それぞれが、それぞれの時間を過ごしている。
そんな光景が、走っている私の視界の端で流れて行く。
去年廃部になってしまったらしい美術部が使っていた空き教室。
扉の前で駆けていた足を止めた私は、一旦深呼吸をしてからそれを開いた。
「ひー君、遅れてごめんね着替えるのに手間取っちゃって。」
「ううん、気にしないで。息があがってる…僕の為に走って来てくれたの?」
「うん。」
「何それ、凄く可愛い。嬉しい。」
私の頬に掛かった乱れた髪を指で軽く払ったひー君は、ゆるりと唇に弧を描く。
「会いたかったよ、日鞠。」
「私も。」
二人で顔を見合わせて、微笑み合う。
少し前まで使われていた事を証明するように、キャンバスや筆や絵の具がまだ撤去されずに残っているこの部屋にいるのは、私と彼の二人だけ。
「今日は卵焼きにチーズ入れたよ。」
「本当?私それとっても好きなの。」
「知ってるよ。日鞠の事で僕が知らない事なんてないからね。」
ここが、私とひー君の昼休みに落ち合う場所だ。
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