第38話

私がいないと生きていけないなんて、そんな事言ってくれるのはひー君だけだ。




彼の髪へと手を伸ばして撫でてみれば、細くて柔らかい感触が指に絡みついてきた。






「休み時間も昼休みも会えるよ。」


「それだけじゃあ足りないよ。」


「ふふっ。」


「…どうして笑っているの?」


「だって、嬉しいから。ひー君がこんなに私に甘えてくれて。」




いつもは私が彼に甘えてばかりだけど、今日はひー君が甘えてくるから新鮮だ。





「日鞠、可愛い。」


「へ?か、可愛くないよ。」


「可愛いよ、好き。愛してる。」




何度言われても「可愛い」という言葉には慣れなくて、頬が火照って恥ずかしくなった私は、両手で自分の顔を覆った。



ひー君は分かっていない。



そんな綺麗な笑顔で「可愛い」って言われる度に、私の心はドキドキと音を立てて落ち着かなくなるのに。





「隠さないで。」


「だって私顔真っ赤だから…。」


「うん、真っ赤な日鞠も可愛いから見せてよ。日鞠のどんな表情も僕だけが独占したいの。」






強引に手を奪われ、開けた視界にあるのはひー君の端正な貌。



こんなに優しくて、温かくて、格好良いひー君のお嫁さんになる人はきっと世界一幸せなんだろうな。




そう考えると、少し胸が軋むような気がした。

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