第23話

壁に掛けられている時計へと不意に視線を伸ばした私は、ここに来て時間が差し迫っている事に気がついた。



「あ、ひー君大変遅刻しそうだよ。」


「あれ、本当だね。それじゃあ行こうか。」


「うん。」




険悪な雰囲気に包まれていた空間が慌ただしく崩れていく。




「それじゃあ私は後から氷雨君ママと一緒に行くから、二人とも気を付けて行くのよ!」


「うん。」


「はい。」




エプロンを着たまま手を振るママに見送られて、私達は急いで玄関扉を開いた。



今日は高校の入学式だ。



流石に初日から遅刻する訳にはいかない。




「お姉ちゃん。」




出て行く寸前、私の背中に影十の声が刺さった。


反射的に振り返れば、綺麗な弟が泣きそうな表情を浮かべていた。




「制服、似合ってるよ可愛い。高校入学おめでとう。」


「ありがとう。」




中学生なのに、随分落ち着いていて大人な弟だなって姉ながら思う。



影十は賢い子だと知っているから、理由もなく人を傷つけたりしない事を私がよく分かっている。



だからこそ、ひー君に対しての冷たい言葉の意味が気になってしまう。




「どうか、気を付けてね。」




見送りの最後に影十から放たれたその言葉は、まるで私の心に何かを訴えるようだった。

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