第22話
迫る非の打ち所がない貌に、羞恥心を覚えた私の視線がふらりふらりと宙を彷徨う。
「あんまりお姉ちゃんに近づかないでくれる?」
私達を割くように響いたのは、冷たい声だった。
咄嗟に私と彼の視線がそこへ向く。
「ああ、影十君久しぶりだね。」
視界が捕らえたのは、双眸を一直線にひー君へと向けている弟の姿だった。
まるで威圧的な視線など感じてもいないように、影十に返事をした彼は自然な微笑を湛えている。
「近い。」
「ん?」
「ただの幼馴染ってだけの癖に、お姉ちゃんとの距離が近すぎるって言ってるの。」
「ごめんね、僕と日鞠にとってはこれが余りにも自然な距離だから。つい。」
責めるような言い方に対して、申し訳なさそうにひー君が顔を歪める。
「こら影十、別に良いじゃないの、二人とも仲良しなんだから。ごめんなさいね氷雨君、嫌な言い方しちゃって。この子、極度に日鞠が大好きだから。」
「いえ、大丈夫ですよ。僕が至らなかっただけですから。」
慌てて影十に注意をしてひー君に頭を下げるママに、ひー君は一つも動揺を見せる事無く首を振った。
「本当にごめんね、影十君。」
「あんたのそういう所、本当に寒気がする。」
謝罪の言葉を口にするひー君を見る影十の目は、見た事がない程に冷徹だった。
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