第20話

「僕がお姉ちゃんよりも先に生まれてたら防げていたのかなって、よく思うよ。」



自嘲的な笑みを落として、脱力するように私の肩に凭れた影十。




「何もできないのがもどかしい。あいつの思惑通りになる現実が悔しい。」




絞り出された震える声に、何の言葉も掛けてあげる事ができない自分に情けなくなる。



思い悩むような顔を見せる影十が心配で、大丈夫だという気持ちを込めて頭をそっと撫でた。



柔らかな髪質は、私のそれとほぼ同じで、私と影十の血の繋がりをこういう所で強く感じる。




「僕、お姉ちゃんが大切だよ。」


「私もだよ。」




顔を上げて苦しそうに笑った影十が、私の背中へと腕を回した。




「お姉ちゃん、お願いだから気を付けてね。」


「え?」


「ううん、何でもない。お姉ちゃん、可愛いから高校でモテモテになりそうで心配だなって。」


「ふふっ、大丈夫だよ。私なんかがモテるなんて、天と地がひっくり返ってもありえないよ。」




ひー君や影十じゃあるまいし、告白をされるなんて事が私の身に起こるわけがない。



何の冗談かと思って笑う私を見て、弟は困ったように眉を下げた。





「お姉ちゃんは綺麗だよ。」


「……。」


「いつか、いつか僕が目を覚まさせてあげる。」




時々、影十の言葉の意図が掴めない時がある。


今なんかがまさにそうだ。




「だからそれまで、どうか無事でいてねお姉ちゃん。」




だから私は、影十が泣きそうな顔で私を見る意味も。


やたらと私に対して過保護な理由も。


ひー君の事を嫌っている原因も。




何も、分からないんだ。

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