第19話
物心ついた頃から、影十はどういうわけかやたらとひー君を煙たがるようになってしまった。
「僕がいない間にあいつを呼んで卒業パーティーをするなんて…お母さんもいい加減にして欲しいよ。」
「煙たがる」そう表現するのは語弊があるかもしれない。
私の捉え方が間違っていないのであれば、影十は恐らく…。
「あんな奴、ただの化け物だ。」
ひー君の事を嫌っている。
棘が刺さるように胸がチクリと痛む。
ひー君はあんなに優しくて、温かくて、大切な人なのに、こんな風に言われると苦しくなる。
影十も可愛くて、大切で、大好きな弟なのに、ひー君の事を嫌っている理由が分からないだけに複雑な気持ちになる。
仲良くして欲しいと願っているけれど、それは私の単なるエゴで我儘だから、その望みを口にする事はできない。
「影十、ひー君は優しい人だよ。」
少なくとも、彼は異常者でも化け物でもない。
それは、一緒に育ってきた私が一番よく知っているはず。
私の発言に対して返ってきたのは、乾いた笑い声だった。
「僕が何を言っても、きっとあいつの毒牙に掛かったお姉ちゃんは目を覚ましてくれないだろうけど、少なくともあいつは優しい人なんかじゃないよ。」
「…毒牙?」
「僕は、あいつ以上に怖い人間を見た事がないよ。」
影十の声が、やけに大きく二階の廊下に響き渡った。
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