第1話 TASOGARE(1)

蓮が黄昏に向かって叫んだ放課後、俺は屋上でタバコを吸っていた。

声がして下を見る。


「なんだ、あいつ?」

「頭おかしんじゃね」

「あれ、小林?」

「ああ、そうそう、小林蓮。陰キャ代表」


クラスメイトたちは笑いながら指さした。俺は笑わなかった。

目の前の黄昏が美しくて、なんとなく気持ちがわかったからだ。

俺はみんながこれからカラオケに行くというのを、振り切って

早足で下に降りた。


階段を走る、そして裏庭に行った。

そこには小林蓮が立っていた。なぜか汗だくだ。

俺は何もなかったかのように、なにも感じたこともなかったように話しかけた。


「よお、なにしてんの?」


しかしこいつは「うるせー」と一言言い放った。

だが俺は気にしないで話しかけた。


「なんでそんなに汗だくなわけ?」

「おまえには関係ねーだろ?話しかけてくんな、このリア充」


リア充⋯⋯俺は笑いそうになった。

そんな風に思われていたのか。

笑いを浮かべると風が吹いた。蓮の長い髪の毛から瞳が見えた。

俺は息を呑んだ。

なんて美しいんだ。あきらかに、おかしな反応だったと思う。

でも次にこう言葉が出てきた。


「なあ、おまえ、友達いる?」

「は?」蓮が振り返った。

「俺と、友達にならない?」


蓮は薄笑いをうかべて俺を見た。

蔑んでいるような目が見えた。


「バカにしてんのかよ、リア充」


「その、リア充っていうのやめないかな?俺にはれっきとした名前があるんだ。大地。みんな大地って呼んでる」

「知ってる」


俺は嬉しかった。


「ばかな連中のリーダーだろ?」


俺は絶句した。急に上がったと思ったら着き落とされた気分だ。


「リーダーなんかじゃないし、君、バカってなに?」

「『君』とか、草」


俺はさすがにかっとして「んだそれ」と怒鳴るように言った。

でも蓮は何食わぬ顔でそのまま、逃げるように去っていった。


黄昏がもう沈んでいた。俺は一人裏庭で残されてぼう然とした。

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