第16話

焦りからなのか緊張からなのか……無性に喉が渇く。




私は沈黙を貫いたまま、残っていたジュースを一気に飲み干した。




キス……。




勢い余って、偶然に触れちゃっただけだよね?




一瞬で離れたんだし……。




事故みたいなもの。




拓真君だって全く驚いた様子はなかったもん。




寧ろ、気付かなかったのかも?




それに成宮君と名倉の位置からじゃ見えないはず……。




私さえ黙っていれば気付かれない……。




そう思い直して、チラっと顔を上げたら拓真君と視線がぶつかった。




「美優ちゃん。」




拓真君が笑みを浮かべて私の名前を呼ぶ。




そのおかげで存在を消していた私を成宮君と名倉まで見つめてきた。




不思議そうな顔で。




「……はい?」




緊張で肩がビクっと震える。




冷や汗が背中を伝った。




緊張しすぎて貧血を起こしそう。




そんな私に一瞬だけ目を見開いた拓真君は………。




「ごちそうさま。」




ニッコリ満面の笑みを浮かべてそう言った。




ハッキリと。

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