第9話

あかん。




泣きそうな顔にそそられてる場合やなかった。




今めっちゃニヤケてもうたかも。




焦った俺は急いで緩んでそうな口を隠して拓真君の頭から手を離した。




やばいな。俺。




「名倉君はー?好きな子いないのー?」




それまで辛そうな顔をしてた拓真君が話題を逸らすかのように俺にそう聞いてきた。




何かを楽しむように思いっきりニヤっと口をつり上げて。




そう。何かを楽しむように……。




「なっ、そんなん違うし!何考えてんねん!好きなわけないやろ!絶対無い!マジでありえへんから!」




「……ん?何が?」




慌てて否定の言葉を並べた俺に拓真君は不思議そうに首を傾げてくる。




……バレたわけやないんやな。




俺の気持ち。




一瞬バレてんのかと思って焦ったやんけ。




じっと俺を見つめてくる拓真君に恥ずかしくなって、俺はそのまま鞄を掴んでイスから立ち上がった。




「帰んぞ。」




拓真君に一言そう告げて店の出口に向かって歩き始める。




「え?ちょっと待ってー。名倉君てばー。」




拓真君も自分の鞄を掴んで、そう言いながら慌てて俺の後をついてきた。

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