第13話

「食べ終わったなら風呂入れ、って言った」



私の横を通り過ぎて、ダイニングテーブルに再び腰掛けた颯斗。もう一本缶ビールを冷蔵庫から出してきたのか…蓋を開けてグラスに注ぎながら、片手でスマホを操作し始める。




萩花さんからの着信では無いことを確認したと思われる颯斗。この後どんな行動に出るのか…黙って観察していると─…




ふと、顔を上げた颯斗と視線が交わった。




「……ん?」



「ん?じゃなくて、風呂…入れば?」



普段なら「入ってくる〜」と言って洗い物をお任せするところだが…今日に限っては何だか早くお風呂に入るように急かされているような気持ちになってくる。




それもこれも…きっと、美雪に言われた”浮気”という言葉が自分の中でどこか引っかかっているせいなのだろう。




「きょ、今日は私…休みだったし、全然疲れてないから洗い物してからお風呂入るよ!」





何となく、いまこの場を立ち去ることを避けたくて「ご馳走様でした」と手を合わせてから逃げるようにキッチンへと向かった。




「あー…昼メシ、食いに行くとか言ってたな」



「うん…って言ってもいつもと同じで相手は美雪だけど。私の職場の近くにあるイタリアンのお店でパスタランチ食べたよ」




美味しかったなぁ…と感想を伝えながら、シンクに溜まっている食器たちを洗い始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る