3



 愛理と別れ、校舎の装飾を早急に終わらせた私は、みんながいる体育館に戻った。



 入ってすぐの場所で看板を設置していた川コンビ。


 私の姿を見た大川先輩が、「あっ」と声を上げて言葉を発する。



「平澤さん、お疲れっす。さっき柚木先生が探してたよ」

「……柚木先生?」

「どこ行ったか知らないけど。一応報告だけ」

「分かりました。ありがとうございます」



 柚木先生……。

 気まずい人の1人。



 探していたって何だろう。考えながら体育館に入ろうとすると、背後から声を掛けられた。



「……あ、平澤」

「えっ、河原先生」



 片手を挙げながら近付いてくる河原先生。それにまた、心拍数が加速する。



「校舎の装飾は終わったか?」

「あ、はい。終わりました」

「そうか。お疲れ」



 そう言って、無言で私の背後にピタッとくっついた。


 背中から体温を感じることができるほどの距離感に、妙な汗が流れる感覚がする。


「……先生、近いです」

「いや、その……」



 河原先生は私の耳元に口を近付けて、そっと囁いた。



「……さっき、見ていた。渡津と仲直り出来て…良かったな」

「…………」



 勢いよく振り返り、河原先生の顔を見る。先生はとても優しく微笑んでくれていた。



「……先生。盗み見は、駄目ですよ」

「人聞きの悪いこと言うな。手伝おうと思って行ったら遭遇してしまっただけだ」

「え、手伝って欲しかった」

「それよりも仲直りの方が優先だ。俺は安心したよ、その光景を見て」



 頭をわしゃわしゃと撫でられ、髪が乱れまくる。


 そんな私の姿を見た先生は、また微笑んで川コンビの方に歩いて行った。


「……」


 また脈を打ち、熱くなる触れられた頭。河原先生への好きが溢れて止まらない。





 その後、文化祭の前日準備は夜遅くに終わった。



 結局、柚木先生とは会うことができないまま、私は学校を後にした。




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