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「あっ」

「平澤……」



 部活が終わり校舎から出ようとした時、昇降口で河原先生と遭遇した。



 今からタバコを吸いに行くのだろうか。だけど手には何も持っていなかった。



「部活終わりか」

「はい。先生はタバコですよね」

「……決めつけんな。まぁ、タバコだが」



 靴を履き替え、河原先生と一緒に校舎裏へ向かう。


 いつも大股で歩いている先生が、私の歩幅に合わせて隣を歩いてくれている。そんな些細なことに大きな喜びを感じた。



「先生は1日に何本くらいタバコを吸うのですか?」

「……多くて40本」

「よ……40!?」



 想像を上回る数に驚きが隠せない。タバコのことは詳しく分からないけれど、40という本数が多いことは分かる。



「1時間に1本くらいのペースですか」

「……それだと1日24本しか吸えないだろ。俺は、吸えるタイミングで3本とか4本とか、まとめて吸う」



 先生は電子タバコをポケットから取り出した。そしてセットをし、口に咥える。



 タバコを吸って、吐き出される煙。


 先生の大人な姿に、胸がときめいた。



「けど最近、タバコの本数を減らそうと頑張っているんだ」

「そうなんですか?」

「……あぁ、もうヘビースモーカーなんて呼ばせねぇよ」



 誰がそう呼ぶのか気になったが、笑ってその場を乗り切った。



 穏やかに流れる空気。


 河原先生が私と話してくれているというだけで、物凄く喜びを感じる。




「……なぁ平澤、柚木先生とは大丈夫か?」

「えっ」



 唐突に出てきた柚木先生の話題に、思わず身体が跳ねた。



「キス……されていないか」

「………」



 少しだけ不安そうな河原先生の表情。


 何で河原先生がそんなことを気にするのだろう。率直にそう思った私は、ここで嘘をついてみることにした。



「……やりまくりですよ。河原先生がしてくれないから」

「…………」



 河原先生のことだから。

 対して関心が無いと思っていた。



「……キスするなって言ったよな」

「なら先生がして下さい」



 それなのに、何だか辛そうな表情をする、河原先生。



「……俺はできないけれど、お前は柚木先生とするなって言ったろ」

「河原先生ができないなら、私と柚木先生とのことに口出す権利はありません」

「お前なぁ………」




 電子タバコをしまい、先生は私の元に近付いて来る。


 どんよりとした目をこちらに向けたまま、そっと私の頭を撫でた。




「あんまり俺を惑わせるな……」




 そう言って私に背を向け、先生は校舎に向かって歩き始める。



「とにかく、柚木先生とはするなよ」

「…………」



 いつもとは違う、少し優しい声色。


 河原先生に触れられた頭が熱くて、脈打って……好きが溢れる。



「何それ……。私の気持ちに応えられないなら、触れなければ良いのに……」



 そう思いつつ、今もキスをしていると嘘をついてしまった罪悪感と、私に触れてくれるようになった嬉しさ。


 色んな感情が入り混じって、苦しくて、辛くて……もうどうしようも無かった。




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