傷付けたくない

1



 翌日の昼休み。


 恐る恐るボランティア部の部室に行くと、鍵は開いていたが柚木先生はいなかった。



「………」



 昨日帰ってから、改めて思った。



 昨日の私の行動は、柚木先生を傷付けたに違いない。


 あの、悲しそうな表情。どう考えても、そんな表情をさせてしまった私の行動が悪い。


そう思った時……。



「あ、平澤さん! こんにちは!」

「……えっ?」



 元気よく現れた柚木先生。


 お弁当を持っている先生は部室に入って扉を閉め、私の隣の席に座った。



「今日からちゃんと食べます。お弁当を買って来たんですよ」



 そう言って袋からコンビニ弁当を取り出した。


 柚木先生は、予想外にいつも通りだった。



「……え?」



 呆然と柚木先生を眺めて固まっていると、不思議そうな顔で私の肩を叩いた。



「どうしました? お弁当食べましょうよ」

「あ……はい」



 いつも通りなのが、逆に気になる。


 私が悪いのに。逆に気になってしまって、どうしようもない。



「………」



 お弁当を食べる気力が湧かず、箸を持ったまま固まっていると、柚木先生が私の顔を覗き込んできた。


 目を合わせると先生は微笑んで優しい声色で呟く。


「平澤さん。考え事は駄目ですよ」

「……」



 柚木先生の顔を見ていると、思わず涙が溢れ始めた。


 優しそうな表情に胸が痛み、ずっと心の中にあった思いも一緒に溢れ出す。



「柚木先生、ごめんなさい。私やっぱり、河原先生のことが好きです。お2人がいたら、河原先生を選んでしまいます。柚木先生は以前、河原先生のことが好きなままでも良いって言っていましたけれど……。このままだと私、柚木先生を何度も傷付けることになってしまいそうです」



 その言葉に、柚木先生は少しだけ口角を上げた。


 何だか悲しさと嬉しさが混ざったような、複雑な表情をしている。




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