2



 全学年の教室が並ぶ静かな3階。


 2年の教室が近付くにつれ、囁くような声が聞こえて来た。




 僕は静かに隣の1年の教室に入って、聞き耳を立てる……。




「前も言ったが、柚木先生とキスしているところを見たら嫌な気持ちになった。……それだけ、お前に伝えておく」

「河原先生……」



 部屋の中の様子は見えない。

 けれど会話を聞いた感じ、泣かされていないし、揉めてもいなさそう。



「私……やっぱり、河原先生のことが好きです……」

「気持ちには応えられないけれど、実は最近……平澤は他の生徒とは違う感じがしている」

「何ですかそれ」

「俺もよく分からん。けどもう、柚木先生とはキスするな……。見たくない」

「……か、河原先生に言われる筋合いはありません」

「俺に抱きついて離れない人が、何強がってんだよ……」

「さっきは庇おうと思いましたが、止めます。全て、河原先生のせいです」

「そうだよ、全て俺のせいだ」




「……………」





 聞きたくなかった、かも。





 そう思い、ゆっくりと教室を後にして、僕はそのままボランティア部の部室に戻った。




「………」




 思った以上に、ダメージが大きいみたい。いい歳した大人なのに、胸が苦しくて痛い。




 河原先生のこと好きなままでも良いって言ったのは、紛れもない自分自身なのに。



 河原先生に想いを伝える平澤さんの言葉は、酷く心に突き刺さった。




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