3




 結局、草抜きをする時間なんてなかった。



 本当にずっと抱きしめてくれていた柚木先生。


 私が落ち着いてきたタイミングを見計らって、さっきどういう状況だったのかを聞いてきた。




「……え、宿直室から河原先生と溝本先生の会話が聞こえてきた?」

「……はい」




 聞いた会話、水音……。全て、話した。



 柚木先生は眉間に皺を寄せたまま大きく溜息をついて、そのまま黙り込んだ。





「………」

「……柚木先生」

「平澤さん、何度も言っています。河原先生は、そういう人です」

「………」



 また、涙が滲む。

 好きじゃないって宣言したのに、この滲む涙は一体何なのか……。



「河原先生は、駄目なんですって。あんな真面目そうな見た目して、そういう人ですから」

「……」




 胸が苦しい。

 痛い、辛い、悲しい。



 沢山の感情が一度に押し寄せてきて、心が悲鳴を上げている。




「平澤さん、他に目を向けてはいかがですか。他が……僕が、ここに居ます」

「……」

「そうやって毎日泣くくらいなら、僕を利用してみませんか」




 少しずつ近付いてくる、柚木先生の唇。





 傷付いた私の心は、さほど反応しない。


 どうでも良くなったわけでは無いけれど、柚木先生なら良いかなって気がして……。






「………」






 近付いてきた柚木先生の唇を、私から迎えに行ってしまった──……。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る