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「………」




 あれは、河原先生と溝本先生。

 絶対にキスをしていた。




 聞いたことの無い、溝本先生の艶めかしい声。それが脳内でリピート再生されて、頭がおかしくなりそう。



「……」




 私は部室の扉にもたれかかり、体育座りをして俯く。



 辛い、悲しい、悔しい。



 そしてそれ以上に、何だか河原先生のことが信じられなくなってきた。


 話しかけて来いって言われて喜んでいたのが馬鹿みたい。


 虚しくて、消えてしまいたい感覚に襲われる。





「ごめんなさい、平澤さん!! 遅くなりました!!」



 パタパタと走って現れた柚木先生は、急いで部室の鍵を開けて私の方を見た。



「開けたよ。どうぞ………って、また泣いてる」

「……ごめんなさい」



 唇を噛み締めた柚木先生は、私の腕を引っ張って立たせて無理やり部室に入っていく。


 そして私を椅子に座らせた後、先生は強く抱きしめた。



「何で、泣いているのですか」

「………」



 そう問われ、益々涙が零れる。


 耳に残る水音。

 それが余計に私の心を苦しめる。



「また、河原先生ですか」

「………」



 その名前に、身体が震えた。自分の感情が制御できない私は何も言えない。そんな私の様子に、柚木先生は大きく溜息をついた。



「もう、止めましょうよ。あと何回言えば分かりますか」

「……柚木先生、違います。もう、もう私は河原先生のこと、諦めます。私では………私では、溝本先生に敵いません」

「……え?」



 そう言い終わると同時に、まるで子供のように、大きな声を出して泣き叫んだ。


 泣き叫び、涙や鼻水で顔はぐちゃぐちゃになり、それでもまだ感情が抑えられない。



「もう、河原先生なんか好きじゃない!! 良い、もう良いの!!!」

「………っ」



 泣き叫んでいる私を抱きしめたままの柚木先生は、左手を後頭部に添えて、少しだけ荒く唇を重ねた。


 唇を離してはくっつけて。そのうち、ゆっくりと舌を絡めてくる。



 初めての行為にびっくりした私は、柚木先生の身体を押して抵抗をした。


 しかし、私の力ではびくともしない。



「……はぁ」

「……ゆ、柚木先生……っ」



 何だか泣きそうな表情をしている柚木先生は、再度私の体を抱きしめる。



「僕なら泣かせない、絶対だ」



 そう言って柚木先生は、私が落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた。




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